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16回「核戦争に反対し、核兵器の廃絶を求める医師・医学者のつどい in 愛知」

基調報告

20051022

【目次】──────────────────────

はじめに

(1) 核兵器と平和をめぐる国際情勢

(2) 小泉内閣の対米追従姿勢と憲法9条の危機

(3) 原爆症認定集団訴訟、被爆者医療の取り組み

(4) 「つどい」から「医師の会」への組織化と当面の課題

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 はじめに

 第16回「核戦争に反対し、核兵器の廃絶を求める医師・医学者のつどい in 愛知」に参加された医師、医学者、学生のみなさん。

 昨年10月、北海道で開かれた第15回「つどい」で、「申し合わせ事項」が確認され、より明確な組織体として発展すべく、「つどい」から「核戦争に反対する医師の会」(略称=反核医師の会、英文表記=Physicians Against Nuclear War; PANW)へと名称変更したことは画期的なできごとでした。核兵器の廃絶をめざして、私たちの会がひきつづき発展してゆくために、激動する情勢の特徴をしっかりとつかみ、この1年間の活動を振り返り、今後の活動方針について活発に議論し、行動に移していきましょう。

(1)核兵器と平和をめぐる国際情勢

 第二次世界大戦が終わって、また広島と長崎に原子爆弾が投下されて60年を迎えました。しかし、人類はまだ核兵器をなくせないでいます。世界の各地では今も戦火がたえず、核兵器が故意または偶発的に使用される危険は去っていません。

 今年5月にニューヨークの国連本部で開催された核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議で、アメリカ政府は「テロと大量破壊兵器拡散」という「新たな脅威」の出現を理由に、核兵器廃絶の「明確な約束」をはじめ、非核保有国に対する核兵器不使用や包括的核実験禁止条約の批准など、これまでの核軍縮のすべてを拒絶しました。そのため最終の合意文書すら採択できずに会議は終わりました。

 しかし一方で大きな前進もありました。核兵器廃絶に向けた明確な二つの提案がされたことです。まず、中堅国家構想(MPI)は、同志国家と非政府組織(NGO)がNPT第6条の核軍縮義務を核兵器保有国に履行させるため、「第6条フォーラム」を発足させることを提案しました。また、平和市長会議は国連第一委員会(軍縮・安全保障)に核兵器禁止条約を協議するための特別委員会の設置を求めることを決定しました。この二つの取り組みは相補いながら新たな運動の展開を広げていくものと思われます。

 2003年3月、イラク攻撃を強行したブッシュ政権は、「新たな脅威」に先制攻撃で対応するという方針をとりつづけています。一方で「脅威」を煽りながら、米国主導の戦争遂行体制をつよめ、「使いやすい核兵器」や「強化型地中貫通核兵器」(RNEP)の開発、先制攻撃のための「ミサイル防衛(MD)計画」の促進と宇宙の軍事化を進めています。米国1国の軍事費でなんと世界全体の47%を占め、2位から33位までの32ヶ国の軍事費の合計に匹敵するという突出ぶりです。

 しかし、泥沼化したイラク情勢や世界各地に広がるテロにみられるように、このような一国単独行動主義では、大量破壊兵器の拡散問題やテロ問題を解決することはできません。核超大国の横暴を許さず、問題の平和的解決という普遍的な国際ルールが貫かれなければなりません。そのためにも、1946年の第一号決議において、核兵器の廃絶を誓った国際連合は特別な役割を果たさなければなりません。

 毎年秋に開かれる国連総会とその第一委員会が、核兵器禁止条約の締結実現への道を開くよう、191すべての加盟国政府に特段の努力を要請するものです。また、今年9月、六カ国協議において、朝鮮半島の非核化へ向けた基本方向を確認する共同声明が採択されました。北東アジアの非核化へ向けた大きな一歩として歓迎し、引き続く協議の進展を期待します。

2 小泉内閣の対米追従姿勢と憲法9条の危機

 このようにアメリカ政府は、核兵器廃絶に完全に背を向けていますが、このブッシュ政権に世界でもっとも忠誠を誓っているのが、日本の小泉首相であることは、周知の通りです。日本政府は、核兵器廃絶を言いつつも、現実には自国の安全保障をアメリカの「核の傘」に求め、先制攻撃政策にもとづく在日米軍基地の再編・強化や「ミサイル防衛」への参加を表明、核兵器使用政策さえ、「抑止の一部」として反対できないでいます。

 イラクに駐留していた38カ国の「有志連合」のうち、派兵継続国はすでに18カ国と世界全体からみると圧倒的少数派となっていますが、小泉自公内閣は自衛隊派遣を継続しています。これに対して、医師であり、防衛政務次官をつとめた箕輪登さんが口火を切ったイラク派兵差し止め訴訟が国内12カ所で争われています。

 また、小泉首相はアジア諸国からの批判に耳を貸さずに、A級戦犯を祀る靖国神社への参拝を続けています。重要なことは、これが小泉首相ならではの突出した行動であるだけでなく、民主党の一部もまきこんだ保守・反動勢力の「戦争する国」へのたくらみの象徴的行為であるという点です。「新しい歴史教科書をつくる会」の動きや教育基本法改正の策動も、国の未来を担う子どもたちへの攻撃として見逃せない問題です。

 唯一の被爆国であり、平和憲法と非核三原則をもつ日本に、世界とアジアが求めているのは、紛争の平和的解決と核兵器の廃絶に固有の役割を発揮することです。そして、アメリカの「核の傘」から抜け出し、北東アジア地域の非核化を実現するために日本はイニシアティブをとるべきです。

 先の総選挙で郵政民営化のみを争点として多数の議席を得た自民党はすでに改憲草案を提示、「改正」のために必要な国民投票法案を通そうとねらっています。日米支配層が改憲の「本丸」としてねらっているのは、憲法第九条、特にその第二項(戦力不保持と交戦権の否認)の改廃です。これによって、日本を他国の侵略から守るのではなく、アメリカの世界戦争に日本を動員しようとしているからです。

 憲法改悪の動きに断固反対し、「九条の会」や「九条の会・医療者の会」に結集しながら、世界に誇れる憲法第九条を何としても守り抜こうではありませんか。

(3)原爆症認定集団訴訟、被爆者医療の取り組み

 平均年齢が73歳、悪性腫瘍をはじめ、原爆の影響としか考えられないさまざまな疾病に苦しめられている被爆者たちは、原爆被害を過小評価しようとする国に対して、渾身の力で原爆の悲惨さを告発し、全国各地で「原爆症認定集団訴訟」に立ちあがっています(現在、18都道府県の12地裁で167人が提訴中)。

 今年3月29日、東京高裁は、原爆症認定を求めて提訴していた東数男さんの訴えを認めた完全勝利の判決をくだしました。厚生労働省は上告を断念し、判決が確定しましたが、残念なことに東さんはその知らせを聞くことなく1月29日、76歳で他界されました。

 判決は、東さんのC型肝炎は原爆放射線被爆に起因するという画期的なものでしたが、厚労省は今回の上告断念も「個別事案」として、他に影響させないという態度をとっています。

 しかし、松谷裁判以降、国に対する原爆症認定裁判で原告側は「7連勝」しており、認定切り捨て行政の破綻は明白です。28万人近い生存被爆者のうち、原爆症と認定されているのは、わずか2000人(全被爆者の0.7%)という数字が国の後ろ向きの姿勢を雄弁に物語っています。

 全日本民医連被ばく問題委員会と同原爆症認定集団訴訟支援医師団は、20041014日、「原爆症認定に関する医師団意見書」を発表しました。この意見書は被爆者医療にかかわっている11名の医師の連名となっており、2001年に「認定審査会」で確認された「原因確率論」と1986年線量評価体系(DS86)を批判し、原爆症認定疾病の範囲についてその拡大を求めています。

 また、在外被爆者、外国人被爆者を救済する問題も早急に解決する必要があると考えます。

 被爆者健診については、1958年に制度が出来てからほとんど内容が変わっていず、医学の進歩を取り入れたものとなっていない実態があります。全日本民医連は日本被団協とともに健診の拡充を求め、何度も厚労省交渉を行っています。地方レベルでは、東京都議会や静岡県議会で健診充実を求める意見書が採択されるなどの成果をあげています。

 原爆症認定集団訴訟勝利や被爆者健診充実のためには、全国の医師・医学者の支援が必要です。国の姿勢を変える運動そして被爆者と連帯を深める運動として位置付け、取り組みを強化していきましょう。

(4)「つどい」から「医師の会」への組織化と当面の課題

 昨年10月の札幌での「つどい」において、会則に準ずる「申し合わせ事項」が確認され、名称も「核戦争に反対する医師の会」(略称:反核医師の会)と変更されました。1987年の「つどい」誕生以来の活動の積み重ねが、全国組織としての「反核医師の会」に結実したことをともに喜び合いたいと思います。

 現在、全国47都道府県中、28の都道府県に名称はさまざまですが、県単位の反核医師の会があります(他に、広島、長崎など九つの県に核戦争防止国際医師会議 [IPPNW] 日本支部の県組織があり、京都では反核医師の会とIPPNW支部が一体となっています)。沖縄、茨城など最近結成された県がある一方で、いくつかの県では活動が停滞していたり、会員の減少傾向がつづくなどの実態があり、未結成の県への援助と合わせて、対策が急がれます。

 また、全国の「反核医師の会」はこの1年間で、団体会員24、個人会員205名まで会員数を拡大してきました(05926日現在)。年間1万円の個人会費は、会の財政基盤を確立するうえでも必要で、さらなる会員拡大が必要です。

 前回の「つどい」には医学生が14名参加し、独自の交流会ももたれました。学生や若手医師に私たちの運動を引き継いでもらうことは、反核・平和運動にとって死活の課題です。意識的な取り組みを行いましょう。

 第17回「つどい」は、2006年秋、東京での開催を予定しています。

 常任世話人会は2ヶ月に1度、会議をもっていますが、(1) 国際部、(2) 被爆者医療、(3) 広報部の3つの小委員会に分かれて活動をしています。以下、各専門部の活動について述べます。

 (1) 国際部

 IPPNWの第17回世界大会は、2006年9月7−10日、フィンランドの首都ヘルシンキで開催予定で、テーマは「医師の社会的責務−戦争か健康か」です。日本の医師の会として、被爆の実相を世界中に発信し、運動に連帯することが第一の課題であり、被爆者の代表を派遣して現地で交流することや被爆関係の映画祭を開催する方向で検討中です。

 また、朝鮮半島をはじめ、北アジア地域での反核医師運動の構築に力を入れることも重要な課題です。

 (2) 被爆者医療

 原爆症認定集団訴訟支援強化と被爆者医療の取り組みの前進を二大課題として、各都道府県での裁判の状況、支援活動の取り組み、被爆者健診をめぐる動向など、各地からの報告をいただき、情報の集約を重ねてきました。

 学習としては、@ 被爆者・被爆者組織から現状や動向、医師の会への要望などをお話しいただきました。A「原爆症認定に関する医師団意見書」について、医師団からポイントを説明いただき、学習しました。現行の認定基準である「原因確率」の問題点を医学的に批判し、被爆者の病像や実態を重視すべき

と主張し、「あるべき認定の条件」を3項に整理した歴史的な提案がなされており、集団訴訟に大きな力となると考えられます。

 今後とも、上記2つの課題を追求し、情報の集約と会員への情報発信を強めていきながら、@ 集団訴訟について、引き続き支援活動に取りくむこと、A被爆者からの要望が強い「被爆者健診充実」のための活動に取りくむことが求められます。

 (3) 広報部

 「反核医師の会ニュース」は1994年の第23号以降、中断していましたが、20035月から復刊し、当面年3回発行(3月、7月、11月)の方針のもと、第30号まで発行してきました。今年からは、会員制への移行にともない、年間購読制として、定期購読者を増やす努力を行っています。今後、反核医師の会の活動報告、各地の「会」交流や会員の意見発表の場として、充実させていきます。

 「会」ホームページは事務局の努力もあり、年々充実してきています。「反核医師の会メーリングリスト」には現在約30名の登録がありますが、発言は活発とはいえず、質量とも発展が求められます。昨年の活動報告集(IPPNW北京大会と北海道の「つどい」を特集)は628部発行され、活用されています。

 第二次世界大戦終結から60年、そして原爆被爆から60年経ったいま、人類には「力の論理」を克服することが求められています。戦争は人間だけでなく、多くの生命と環境を破壊します。核兵器・核戦争がその最たるものであることは言うまでもありません。「なくせ核兵器、なくすな9条──被爆60年を節目に、新たな決意で前進を」メインテーマの呼びかけにこたえて、被爆者や平和を求める諸団体と手を携えながら、文字通り「新たな決意で」医師・医学者の社会的責務を果たしていこうではありませんか。

20051022

       核戦争に反対する医師の会 常任世話人会